なぜこの店で買ってしまうのか?
- 2021.03.29
- Learning

ショッピングの科学
混雑した売り場には絶対に立ち寄りたくないという心理が働く。それは「尻こすり効果」である。米国エンバイロセルの創業者であるパコ・アンダーヒル(Paco Underhill)は、1979年に「顧客行動分析」という独自のマーケティング手法を開発し、他の客に尻を押されるとそこで買い物を止めることを発見した。そこで、売り場を通路から離れた場所に移すと売り上げは急上昇。同じ現象がさまざまな売り場で起こっている。実は少しのヒントで売り上げはグンと伸びる。
ショッピングの科学とは、買い物客が購入したくなるように店や商品を変える考え方だ。かつて企業は広告を使って消費者へ購買意欲を喚起し来店させて売っていたが今はこの方法は使えなくなっている。現代の客は店舗のフロアで何を買うかを決めているからだ。実際、ドンキホーテの客もジャングルの様な店内に入ってから何を買うかを決めている。
客の滞留時間が長いほど売上は伸びる
買い物時間と売上の相関関係を発見した。非購入者と購入者とでは3〜4倍の差があることが多い。蔦屋家電ではこの理論を実践しており、本やおしゃれな商品を快適な空間に並へ、居心地良く時間を忘れて楽しめる空間を作り上げ売上を伸ばしている。
来店客のうち実際にモノを買う客の比率を、コンバージョンレートという。多くの小売業者は来店客の100%が目的持って来店する買いの客だと考えているが、実際に調査すると48%であった。このことは、来店する客への販売機会を逃していることに気づいていない小売業者は実に多いと言える。
プロスポーツ興行のスタジアムサービスやテーマパークでは滞留時間が長くなる綿密な設計をしており客単価向上と共に売上増加に繋げている。また、従業員と客が接触する割合を応対率といい、接客の機会を増やすほど売上は伸びる。しかし多くの店舗は従業員を削減し売上を落としている。
2本の手がショッピングに与える影響
人間の生物学的な特徴が買い物にも影響を与えている。例えば人間の2本の手を空け楽に買い物ができる環境を作れば売り上げが伸びる。手ぶら買い物ができる様にとクロークで手荷物を預かるサービスや、商品で手が塞がっている客にカゴを渡してあげる親切行動など売上拡大に大きく貢献している。店の黒字・赤字を分けるのはちょっとしたついで買いであり、両手が塞がるとそこで買い物が終了となる。
客は店に入った直後、無意識に店内を観察し、音・匂い・温度の分析に集中する「移行ゾーン」と呼ばれる状態になる。この「移行ゾーン」を短くすれば空間を有効活用して売れる様になる。入り口で客の歩行速度を落とす又は立ち止まらせる対策(自動ドアをやめる、敷居をつける、案内図を置くなど)は「移行ゾーン」短縮に繋がる。
客を買う気にさせる方法
輸入食品ショップのカルディでは、店頭で商品のコーヒーを淹れ紙コップに入れて配っている。コーヒーの香りや店内に流れるラテン音楽によって、味覚・嗅覚・聴覚に訴え客が買いたくなるようにしている。現代の消費者は「買う前に試したい」と考えており、買う前の実物の体験はショッピングに大きな影響がある。
客の待ち時間は「見えない財産」
サービスの評価を下す上で最も影響があるのが待ち時間だ。90秒を過ぎると正確な時間感覚が歪みイライラする。人は文字を読んでいると待ち時間を短く感じるようになるため、メニューを渡したり興味を引くメッセージを送る方法などや時には試食品を提供すれば、待ち時間を活かせる。
消費者も時代とともに進化している。マーケティングといえば大がかりな戦略に目が行きがちだが、実際には現場での実践がビジネスの結果を大きく左右するのだ。
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