隠れたキーマンを探せ

隠れたキーマンを探せ

B2B営業が進まない原因は「顧客の購買プロセス」にある
私自身が、企業勤めの際にセールスをしていた時「お客さんが何でも話してくれるような仲になれ。好意的なキーマンを見つけ味方にすれば勝てる。」と上司や同僚に言われてきた。しかし、今のB2B営業はこれだけでは売れない。

現代ではB2B営業で商談の購買決定に関わる人数は平均5.4人もいる。購買の可能性は、1名で81%、2名で55%、6名で31%と関わる人数が増えるごとに激減する。顧客の意思決定者は1人では決められない。リスクを嫌い、社内合意を重視するからだ。そこでセールスは購買決定に関わる5.4人と個別に会い全員の説得を試みる。しかし彼らの関心は立場によって全く異なっている。

管理部門は「コスト削減」、営業部門は「売上拡大」マーケティング部門は「市場認知度向上」だ。相反するので全員を説得するのは大変であり、例え全員を説得できたとしても売れないことも多い。セールスは個別の商談で関わる部門のメリットを強調する。しかし関係者全員が集まり承認するとき、相手は説明されていない全体の大きさを初めて知り合意形成が成されない。個別説得は関係者の違いを拡大し、合意を妨げる。

顧客の購買プロセスにも問題点が潜んでいる。「①問題定義→②解決策の特定→③取引先の選定」のプロセスで、社内で最も議論が対立するのは37%まで進んだ②解決策の特定の時点。そして、顧客がセールスに声をかけるのは57%まで進んだ③取引先の選定の時点。取引先の選定の時点での関心はどの会社を選ぶかなので値切られる。セールスは早い段階で購買プロセスに入り、顧客が問題と解決策を決めるのを支援する必要がある。

では、どのように顧客関係者の合意形成を促せば良いのか?

まず購買決定に関わる顧客関係者を7タイプを知る
「やり手」組織を改善し、結果を出す
「教育者」知見の伝達と共有を重視。同僚に頼られる。情熱と説得力がある。
「懐疑者」正確さを重視し、立証責任を求める。この人が支持すれば皆が信用する。
「案内役」手に入らない情報を教えてくれる
「友だち」接触しやすく、他の人を紹介する
「上昇志向」自分が目立つことを支援する
「阻害者」現状維持を求め、変化を阻む

「案内役」「友だち」「上昇志向」のタイプは組織を変えられない。彼らをトーカー(話し好き)と呼ぶ。B2B営業で最大の敵は顧客の現状維持志向だ。トーカーに売り込んでも顧客は何も変わらない。

「やり手」「教育者」「懐疑者」のタイプは組織行動を推進し、結果を重視する。彼らをモビライザー(動員者)と呼ぶ。問題解決を売るには顧客の変化が必要だ。モビライザーは顧客が変わる原動力なので、セールスは彼らにどこで学べば良いかを指導し、関わり方を関係者ごとに適応し、合意形成プロセスを支配するよう誘導することだ。

【第一段階】知見を提供し「指導」する
出発点はモビライザーが「現状を変えるには新しい挑戦が必要だ」と認識することだ。そして彼らに顧客関係者の説得を任せる。ここで顧客のメンタルモデル(根強い考えや思い込み)を変える必要がある。顧客自身が「現在の考え方や行動(A)を、望ましい考え方や行動(B)」に変えなければ」と納得したとき、顧客のメンタルモデルが変わる。

ここで必要なのが、(A)のデメリットをしっかり伝えることや「それ間違ってますよ」と言う知見である。知見を使って自社しかない強みに誘導する。

しかし、顧客がセールスに声がけする57%よりも前段階でモビライザーに知見を伝え、働きかけなければ意味がない。そこで彼らが変革を推進したいと思わせるタネを撒く。

ソーシャルメディアが普及した現代では、モビライザーは売り手であるセールスの発信情報よりも、第三者の専門家や他顧客の意見を参考にしている。そこで、ソーシャルメディアを活用して、モビライザーが常識に疑いを持つように働きかけ、変化を促すのだ。さらには全ての発信コンテンツが「知見」に繋がるようにデザインする。そのためには次の3ステップが必要である。

①刺激:知見を伝え、「知らなかった。もっと調べよう」と思わせる。
②導入:詳しく説明する。動画や詳細資料で「自社はどうだろう?」と思わせる。
③直面:痛いところを突く。アンケートやオンライン診断などで自社の痛みの程度をわかるようにする。「これはまずい。解決方法を探さないと」と思わせる。

常識を壊す意外なコンテンツは、ソーシャルメディアでシェアされ拡散する。

【第二段階】個々の顧客関係者に知見を「適応」する
セールスは、いま会っている顧客関係者のトーカー(案内役・友だち・上昇志向)を除外しモビライザー(やり手・教育者・懐疑者)を見極める。

①知見への反応はどうか?興味を持たなければトーカーであり、彼らは変革する気がない。
②知見に興味を持ったら、その課題についてどう話すかを見る。自分の事ばかり語る人は「上昇志向」、組織全体の課題について話したらその人はモビライザーだ。
③さらにコミュニケーションスタイルを見る。具体性を求めるなら「やり手」、意見を語るなら「教育者」、事実を重視するなら「懐疑者」である。

【第三段階】顧客社内の合意形成を「支配」する
顧客の意思決定に強い影響力を持つモビライザーは、セールスにとって貴重な資産だ。彼らのおかげで顧客の購買行動とプロセスを支配できる。そこで必要なのが集団学習だ。顧客関係者同士が課題について議論を重ね、学び合い社内の断絶を克服し、新たな合意ポイントを探り、共通の意思決定を行い、組織内での合意の流れを醸成する。この時セールスは、顧客関係者同士が理解不足をなくすようにサポートする役割を担う。

集団学習は、質の高い案件の成約率を20%高める。さらに多様な関係者を購買前に一緒に学習させることによって「高い料金を払っても良い」と言う顧客意向が70%高まる。従来では「顧客同士での議論は個別合意が壊れる」と言われてきたが、実際には顧客内での議論が重要なのだ。集団学習には顧客内のワークショップが効果的だ。

顧客の集団学習を促すために、セールスはプレゼンテーション力よりもファシリテーション力(議論を活性化し、合意形成を支援する力)が求められる。そして顧客内で不安や懸念があれば、包み隠さず話し合うように奨励する。

残念な常識
「需要の創出」
BANT条件(予算、権限、ニーズ、時期)で買う準備ができた顧客を探すのが定石だったが、この時点ではすでに遅く検討の議論段階で会わなければならない。

「マーケティング人材」
マーケティング部門はデジタルスキルを重視し過ぎている。単なる手段であり、重要なのは顧客に先んじて価値がある知見を創る力だ。

「ソーシャルメディア」
情報を拡散すればいい、フォロワーを多く増やせばいいと多くの人は考えるが、価値のない情報はノイズでしかない。エンゲージメントが高く知見を共有するチャネルとして活用しなければならない。

「阻害者への対応」
阻害者は無視は間違いであり、彼らの影響力は大きく見えないところで案件が潰される。顧客関係者同士で阻害者を説得するように促す必要がある。

従来のB2B営業の常識はいまや間違っていることが多い。以上のことは「いかに売るかではく、いかに顧客の変革を支援して成功させるかを考える」という一貫したメッセージを届けている。